完了検査時は駐車場だったテナントビルの一階と二階を、完了検査後に事務所にしたことによって容積率オーバー状態となったオフィスビルの適法改修事例です。

この記事は、容積率オーバーのテナントビルに関するノウハウをまとめています。本プロジェクトの概要については[豊島区の適法改修事例]オフィスの容積率違反調査を実施し、適法改修したプロジェクトのページをご覧ください。

完了検査後の増築で容積率オーバーとなったオフィスビルの事例

この物件は違法増築されたオフィスビルで、確認申請時と完了検査時には一、二階のテナント部分が駐車場になっていた物が現状では事務所になっており、容積率オーバー状態でした。

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容積率について規定している建築基準法第五十二条の記述をそのまま引用すると、「自動車車庫等(駐車場の他、駐輪場も含む)の用途に供する部分」は、「面積の合計の五分の一を限度として」「延べ面積(この場合容積率の算定においての面積)に算入しなくてよい」とされています。

例えば、100m2の敷地で容積率200%であった場合、全てが事務所の用途であれば、200m2までしか建築できませんが、50m2の車庫をさらに作ったとしても、合計の面積は200+50=250m2となり、その五分の一は250÷5=50m2(=駐車場の面積)となるため、容積率オーバー(=違法)にはならないのです。

容積率オーバーなどの違法物件は銀行の融資が受けられないことも

今回の計画は、この物件の購入を検討している売主側の不動産会社からの依頼ではじめたもので、銀行の融資を受けるために適法改修を行うことを目的としたものでした。

最近はほとんど見ないですが、かつては自動車車庫等の容積率緩和規定を悪用し、完了検査時は駐車場として検査を受け、検査後に収益性の高い事務所や店舗等に違法に増築した物件がかなりあるようです。

しかし、企業のコンプライアンスが厳しく問われる様になり、違法物件への融資を銀行がほとんど行わなくなっているため、近年はそのような違法物件は敬遠され、同規模の適法な建物の市場価値に比べて価格が下落しています。

建物の不適合部分を調査し、容積率オーバー解消の方法を検討

まず計画を進めるにあたり、まず既存の建物の容積率オーバー以外の部分が建築基準法に適合しているかどうかをチェックしました。

完了検査を受けていることもあり、不適合部分は殆どありませんでした。そこで、次は容積率のオーバー部分をチェックしました。

建築基準法による容積率の制限は用途地域等から鑑みられたそれぞれの敷地に対しての定められたものに加え、道路幅からの制限を受け、その厳しい方を取ることになっています。

今回の物件は、用途地域が商業地域で敷地に対しての制限は600%の容積率でしたが、道路幅が8mと狭く、道路幅からの制限が6/10(道路幅に対しての係数)であったため、8×6/10=480%までしか建てられない敷地でした。

特定道路の緩和を利用しオフィスの床面積を確保

ところが、敷地近くに大きな道路があったため、詳しくチェックすると特定道路の緩和が使えることが分かりました。

特定道路の緩和とは、15m以上の大きな道路(=特定道路)に接する、6m以上の道路に面する敷地に対しては、一定の距離まで、極端な建物規模の変化を防ぐために定められた緩和規定で、この建物の竣工時にはなかったものです。

そこで、この緩和を使うと530%程度まで使えることが分かり、二階の大部分は事務所としての床面積が確保できることが分かりました。

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コンパクトな改修計画でコストと工期を大幅に抑制

その後、調査をもとに適法化の改修計画を立てました。最小限の改修計画とすることで、コストと工期の大幅な圧縮に貢献しました。

具体的には、特定道路の緩和の利用によって二階の大部分が事務所として使えるため、残りは事務所利用者の駐輪場として計画し、二階へは自転車用スロープでアプローチする計画としました。これにより、竣工時にあったカーリフトを設置する必要がなくなり、コストや工期を大幅な抑制することにつながっています。

それに加え、スロープ用の開口はもともとあったカーリフト用の開口を利用したり、スロープ本体も鉄骨で設置する計画とするなど、コスト、工期に配慮した計画としています。また、二階の事務所の改修部分も極力既存の躯体の形を変えず、新設する壁の量も極力少なくなるよう工夫しました。

建物の法律家・建築再構企画は、建築主(ビルオーナーや事業者)向けの無料法律相談や、建築士向けの法規設計サポートを行っています。建物の適法改修についての調査に加え、必要な手続きを調査することも可能です。詳しくは、サービスメニューと料金のページをご覧ください。

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テナント入居型の保育施設開業における適法改修のポイントについては、「テナント入居での保育施設開業の注意点。建築基準法(用途変更)やバリアフリー法」をご覧ください。