テナント入居での保育施設開業の注意点。建築基準法(用途変更)やバリアフリー法

都市部で保育園を開園する場合、既存ビルにテナント入居するケースがほとんどです。しかし、保育施設は建築基準法、バリアフリー法、児童福祉法に適合する必要があり、これらの規制が保育園のテナント入居を難しくさせています。さらに、用途変更ができない場合も多く、テナント入居(ビルイン)での保育施設開設(開園)の障害になっています。

厚生労働省によると、待機児童は全国で約1万2千4百人(2020年時点)、そのうち東京、大阪、名古屋などの三大都市圏が7割以上を占めるといいます。

待機児童数の集計
厚生労働省「保育所等利用待機児童数調査における除外4類型について」より抜粋

待機児童の数が減らないのは単純に大都市圏では人口が多く、それに見合う保育所の数が不足しているからです。ではなぜ、保育所を増やすことができないのでしょうか。

保育施設に法律で求められる設置基準(児童福祉法・助成金)

保育施設が増えない原因はいろいろあると思いますが、一つの大きな原因に、保育施設に対する「基準」の問題があります。

0〜1歳児を入所させる場合の「ほふく室」の面積は一人あたり3.3㎡、2歳児以上が使用する「保育室・遊戯室」の面積は一人あたり1.98㎡等、児童福祉法で定められた「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(旧称:児童福祉施設最低基準)」によって細かく規定されています。また、調理室や静養室等の設置義務もあります。

これらの基準を満たさなければ国から「認可」されず、助成金をもらうことができないのです。そのため、家賃の高い都心部ではこの基準を満たすことが難しく、大きな障害となっています。(但し東京都や神奈川県では認証保育所制度を独自で策定しており、国の基準より低く設定された基準をクリアすれば助成金をもらうことができます。)

テナント入居型の保育園・託児所の注意点とは?

保育施設がテナントとして入居する際には、施設の使い方を変えるときの手続きである用途変更とバリアフリー法が障害となる場合が多くなっています。

用途変更の確認申請が必要となる

また、施設基準以前に大きな問題として、建築基準法に定める用途変更(詳しくは確認申請とは?(4)-用途変更の場合の確認申請-参照)の手続きがあります。

保育所開設にあたり、大都市では土地が不足しているため、また駅に近い立地が好まれるため、まず新築で保育園の建物を建てるというケースは少ないです。そうすると、既存の建物に一テナントとして入居する場合が多いのですが、その場合に大きなネックとなるのが、用途変更です。

新たに保育園を作るのですから、既存の建物の用途は保育園以外(例えば店舗や事務所等)になりますが、その面積が200m2を超える場合には、建築基準法で定められた、用途を変更するための確認申請の手続きが必要になります。

用途変更の確認申請を提出するには、申請をする建物全体が適法である必要があります。実はこの「適法である」という状態の物件が非常に少ないのです。2014年(平成26年)に国土交通省が出した、「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関等を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」によれば、1998年(平成10年)で建物が完成した時に受けなければいけない完了検査(詳しくは完了検査とは?参照)を受けている建物は38%です。

これは公共の建物等も含まれており、またこれ以前の状況はもっと酷いので、弊社の実感としては、全体としては20%を割っているのではないかと思います。そのため、およそ8割の建物はこの「適法である」という状態が担保されず、建築基準法に定める用途変更の手続きが、事実上不可能という状態になっているのです。

また、都内で検討が進められている小規模保育の様な100m2に満たないような小規模な保育園でも、福祉局という保育施設の認可を行う行政機関の提出書類に、建築士による適法な状態であることを調査して問題無いことを証明した書面が必要となるなど、建築基準法に関する遵法性がとても重視されるようになっています。

バリアフリー法の規制にも注意が必要

平成18年、それまで努力義務であったバリアフリー法の規定が、ある一定規模の建物に関しては義務化されることになりました。

この「ある一定規模」というのは、不特定多数の利用する建物で、2,000㎡以上のものです。その規模の保育施設を作ることはまずないだろうから安心、と思っていると大きな誤りです。条例によって制限を付加されることがあるのです。実際、東京都や横浜市では児童福祉施設は0㎡、つまりどんなに小規模なものでもバリアフリー法に適合させなければならなかったのです。(その後児童福祉施設法の改正があり、20人未満の小規模な保育園については、「小規模保育事業」という業態が新たに設けられ、東京都、横浜市などではそれら小規模保育事業についてはバリアフリー法の適用を免除するなど、運用の合理化が図られています。)

建築基準法(建築・法律)無料チェックのページに記載した、二例目のように、都内のマンションの一室で一時預かりを行うだけの託児施設も、この規定の制限を受ける場合があります。エレベータを車いす対応にする必要があったり、廊下や階段の幅、道路からの出入り口への手摺の設置や点字鋲の設置など多岐に渡ります。

もちろん、緩和があり、「知事がやむを得ないと認める場合には、適用しないことができる。」とされています。エレベータや廊下、階段の幅などの既存の建物の躯体をこわさなければ対応できないような部分については「やむを得ない」と認められる場合も多いでしょう。

しかし、知事に対してこの「やむを得ない」と認めてもらうための「認定」を受けるための申請を行わなければならず、その認定には少なくとも一ヶ月程度の時間がかかってしまいます。その場合工事着手が遅れるなど、保育所の開設に対して大きな障害となることは否めません。

事例:不動産業者から入居を断られた代官山の託児所

弊社が計画に携わった代官山の託児所も、このバリアフリー法の規制が障害となりました。

クライアントは既に託児所を運営しておられたのですが、規模を大きくするためにこの物件を見つけ、契約直前でした。「認可」保育所とするのが理想だが、難しい場合は「認可外」とすることも視野に入れた計画でした。

不動産業者は大きな会社であり、我々設計者側にも「法令遵守」することを求められたため、都内では上記の様な規制があり、建物を一部バリアフリー化する必要があることを伝えました。建物は比較的新しく、エレベータや通路等の幅は全く問題なく、道路からと、エレベータ前に点字鋲を設置するだけで法に適合する状態でした。

だが、貸主側の不動産業者には、共用部に変更を加えることができないという理由で、入居を断られてしまいました。クライアントには非常に気の毒でしたが、建物もその不動産業者一社の持ち物ではなく、複数の会社の物だったため、手続きの煩雑さを考えるとその不動産業者の選択を責めることはできないかもしれません。

ほとんどの人が「知らない」保育施設設置に対するハードの壁

この規制は一般の人はほとんどの人が知らないと思います。そして、法律の恐ろしいところは「知らなかった」では済まされない点です。

運転免許を持たない人が自転車で道路交通法違反で捕まる例が増えており、マスコミに取り上げられたりしていますが、マンションで託児所を運営しているだけで法律違反をしてしまっている、というのはほとんどの人が聞いたことがないと思います。

さすがに、いきなり是正勧告や退去を命じられることはないですが、現状は知事による「認定」がなければ違法であることには変わりはありません。現在保育所・託児所の運営をしている人はもちろん、これから開業を考えている人も、一度建築士に相談してみてください。

建物の法律家・建築再構企画は、建築主(ビルオーナーや事業者)向けの無料法律相談や、建築士向けの法規設計サポートを行っています。建物に関わる関連法規の調査に加え、改修や用途変更に必要な手続きを調査することも可能です。詳しくは、サービスメニューと料金のページをご覧ください。

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用途変更以外の適法改修事例については、「違法増築(容積率オーバー)のテナントビルの適法改修事例」をご覧ください。