今年(令和元年)施行の法改正で拡大された、用途変更の確認申請不要な建物で見過ごされがちな既存遡及についての考え方について

このところ、立て続けにご依頼頂いた物件がある問題に直面し、今年施行の用途変更の確認申請の適用が200m2超となった事によって生じる難しい側面だと感じられたので、久しぶりに記事をアップする事にしました。

改修工事の遡及規定は改修部分以外にも一部適用される

既存不適格建築物とは?でも記載した様に、改修工事の場合、
・増築、大規模の修繕/模様替えでは原則既存遡及だけど、一部緩和規定あり。
・用途変更では原則既存不遡及だけど、一部遡及規定があり。
という考え方になっています。
よく知られているのがエキスパンションジョイントによる構造規定の緩和で、一棟増築の場合にエキスパンションジョイントを設けることで、増築部分は現行法に適合させる必要がありますが、既存建物に部分的な検討で現行の構造規定を遡及させなくても良くなります。

【図1:増築等を行う場合の構造規定の既存遡及の考え方】
しかし、建築基準法では「独立部分」という考え方を用いて既存遡及をすべき規定と、緩和が受けられる規定を定めており、既存部分とその他の部分との分節の 仕方はそれぞれの規定によって違ってきます。
そのため、エキスパンションジョイントによる既存部分と新設部分との分節は、避難規定や排煙規定では適用できない為、それらの規定は既存部分も遡及させなければならなくなります。

【【図2:独立部分に対する考え方】
 

用途変更における既存遡及規定の考え方

用途変更の場合も排煙、避難に関する規定は増築等の場合と同様の考え方で、既存遡及をする必要がある規定となっています。
特に避難規定の分節の仕方は「開口部の無い耐火構造の床・壁」となっており、よほど大きな建築物で過剰気味に階段を設けていない限り、この緩和規定を使うことは難しくなっています。
そしてここで重要なのは、避難規定については用途変更部分以外の部分についても、独立部分でない限りは遡及対応が必要だということです。例えば一階だけ用途変更する場合でも、上の階の階段で既存不適格部分があった場合には原則現行法に適合させなければならないのです。

具体例による解説

今回ご依頼を受けた物件も、この規定がネックになっています。具体的に事例を見ていきましょう。物件は、
・昭和40年竣工
・SRC造
・地下三階地上九階建て。地上階は九フロア全てテナント貸し
・各階床面積200m2弱
・延べ面積約2,280m2
・耐火建築物
の建物で、屋内避難階段が一つしかありませんでした。
ここで懸命な読者の方は気づくかもしれませんが、各階の居室面積は200m2を割るものの、六階以上の階に居室を設けているのに、二以上の直通階段が無いのです。
建築基準法施行令第百二十一条第1項第六号では、「六階以上の階でその階に居室を設けるもの」は用途を問わず、二以上の直通階段を設けるか、屋外避難階段or特別避難階段+避難用のバルコニーを設けなければならないとされています。
しかし、この規定は昭和48年の建築基準法改正によって適用拡大されたもので、この建物の竣工当時は適用されていませんでした。
建築基準法における防火・避難関係規定の変遷(国土交通省資料)

私達にご相談頂いたのはこの建物の一階~三階に入居しようとしていたテナントで、物販店及び事務所用途から飲食店の用途に用途変更しようとしていました。
図面を確認してすぐこの避難階段の規定がネックになることが分かったので、テナントにこの内容を報告しました。
厄介なのが、この建物が前面道路以外は全て隣地に建て迫っており、外部からの工事はおそらく不可能と思われることです。
建物の間口、面積的にも、また非常に地価の高い一等地にある建物であったことから、もう一つ階段を設ける事は不可能と思われたので、避難用バルコニーを設けることが考えられました。しかし、上述の様に避難用バルコニーと対になる階段は、屋外避難階段か特別避難階段でないといけないですが、いずれもこの建物の形状や配置からは不可能と思われました。また、仮に可能であったとしても、階段の改修は大規模の模様替えに該当し、今度は耐震性についての検討も必要になってくるため、建物全体をどうするか?という大きな判断が必要になります。そのため、テナントにこの物件で用途変更を行うことは非常に難しいということを伝えました。
するとテナントの担当者からは、200m2以内に借りる面積を抑えることで、この階段の改修工事を回避できないか?との返答をもらいました。しかし、確認申請の要否に関わらず、用途変更する場合には遡及対応が必要です。テナントにはその旨お伝えし、オーナーとよく話しあってもらうこととしました。

まとめ:うっかり違反建築物を作らない為には?

ここで、私達が気になったのは、今回の法改正によって確認申請不要で用途変更を行うことが可能な面積が拡大されたことで、このようなケースが非常に多くなり、気づかない内に既存不適格建築物を違反建築物にしてしまう事例が多くなってしまうのではないかということです。確かに今年の法改正で用途変更の場合も段階的に適法化していくプロセスが定められました。しかし、今回のケースの様に、段階的に進めても適法化する道筋が見えない場合には、その規定の適用も難しいと思われます。
一階の店舗入れ替えというのは非常に良くあるケースだと思いますが、オーナーやテナントの様な建築の専門家でない立場の人達は、まさか階段の改修が必要になるとは思わないと思うので、昭和48年以前の古いビルのオーナーやそれらに入居しようとするテナントは、建築士に良く相談し、うっかり違反建築物を作ってしまうことの無いようよく注意してもらえたらと思います。

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