完了検査を受けていない建物の用途変更事例

こちらのケースでは、クライアントは介護施設の事業者で、元々物販店舗が入居していたテナント区画に、デイサービスとしての入居を予定していました。当初は独力で開業準備をされており、工事に差し掛かったところで、用途変更の確認済証が提出されていないことを理由に福祉局から工事の中止を求められました。

クライアントにとっては想定外のことが発生し、縁あって我々にお声がけいただきました。当時、クライアントは、用途変更に係わる手続きについて把握していませんでした。また、悪いことにこの物件には、検査済証がありませんでした。検査済証がない場合、同じ用途変更でも相当な労力とコストを要します。我々は、まずクライアントに対して、用途変更の必要性と検査済証がないケースの是正のプロセスを説明させていただき、プロセスに納得いただく事からスタートしました。

用途変更は、新築に比べると申請に必要な内容が非常に多く緩和されているのですが、これは用途変更しようとしている建物が、新築時に建築確認を済ませたことにより適法しているという前提があるためです。この適法性の担保となるのが、検査済証です。検査済証がない建物が労力とコストを非常に要するのは、建物全体の適法性を証明する必要が出てくるためです。

我々はまず、行政との協議を開始し、まずは既存の図面を元に必要な図面を作成することからはじめました。意匠と設備はほぼ図面通りで、現状と異なる部分については修正しました。構造は、構造図はありますが、構造計算書がありませんでした。そこで、改めて構造計算や既存建物の調査を進めることにしました。

検査を受けていないので、竣工時の建築基準法の要件を満たしていたことを証明する必要があります。このケースで行った、3つの調査方法を、紹介します。

1,図面通りに施工されているかの確認

構造形式は鉄筋コンクリート造だったのですが、図面通りに施工されているかを確認しました。写真1は、超音波を当てることで柱の中の鉄筋を探し出すものです。多くの建物に使われている鉄筋コンクリートは、鉄筋で骨組みをし、それに定着するようにコンクリートを流し込んで固めます。コンクリートの内部に図面通り正しく鉄筋が配置されているのか、超音波の反射を利用し確認する、非破壊検査です。主要な柱を調査して、鉄筋が図面通り入っていることを確認しました。

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写真1

2,強度の確認

強度の確認には、圧縮試験を用いました。写真2は、圧力をかけることで材料の強度を図る機械で、躯体の一部分をサンプルとして抽出し、圧力をかけて強度が発揮できるかを調べるものです。各柱・耐震壁など構造上重要な部位に関して、コンクリートの強度が当時必要とされていた値を満たすことを確認しました。

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写真2

3,劣化が過度に進行していないことの確認

最後は、中性化試験です。鉄筋コンクリート造は、アルカリ性の状態を維持して、内部の鉄筋が錆びないようにしています。しかし、時間が経過すると空気中の二酸化炭素と反応し、中性化が進行します。その中性化の度合いを調べるために写真3のようにアルカリ性で反応する薬液につけ、中性化の進行を調べました。調査より、中性化は許容範囲に留まっているので、問題ないという結論を導きました。

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写真3

このように調査と構造図・構造計算書をまとめて、行政の方に建築基準法を満たしているとの調査結果を提出し、用途変更の申請を出すというプロセスになりました。

行政との折衝から、是正完了まで、約半年が経過しました。すでに賃料が発生する時期を迎えていましたが、オーナーさんにも検査済証を取得していなかった責任がありましたので、経緯を説明し、家賃を減免して貰うことになりました。

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