違法な用途変更が行われた、オフィスビルの適法化事例

既存建物を適法化する際にどのようなことを行うのか。事例を元にお話しいたします。

都内の9階建て、約2,000㎡のオフィスビルの事例です。クライアントはこのビルの購入を検討しており、購入にあたって適法化の道筋を検討したいという依頼でした。

この建物の場合、周辺相場で約10億円相当の規模でしたが、違法建築であることによって、2~3割程度価格が下がっていました。

適法化するにあたっては工事が必要となりますが、是正の道筋を立てないと、収益性が確保出来るかの判断ができません。また、資金調達という観点からみても、違法性が解消されない建築物は銀行からの融資を受けることも難しいのです。そうした事情もあり、相場よりも値下げされていました。

これらを総合的に検証した上で、事業性が確保出来れば購入するというお話でした。

このケースでは、容積率がポイントとなりました。容積率とは、土地の面積に対して、建物全体でどの程度の面積の建物を建てられるかを定める規定です。例えば100㎡の土地に対して、容積率が300%と設定されていれば、300㎡まで建てることができます。

容積率には様々な緩和規定があります。法律で統一した基準が定められていますが、建物が建てられる土地や地域の状態はさまざまです。そこで実態との乖離を防ぐため、緩和規定が設けられています。

図1はこの建物の完了検査を受けた当時のものです。

図1

このケースでは、駐車場の容積率の緩和規定を悪用し、違法な改修が行われていました。延べ面積から1/5までの駐車場の面積は、容積率の算定の対象から除くことができます。図1の青色の部分は駐車場用途で緩和対象となっています。カーリフトを使用し、1~2階を駐車場とする計画でした。

図2

ところが、図2のように現状はカーリフトを撤去しており、1~2階をオフィスとして使用しています。容積算定から除外される駐車場用途から、除外されないオフィスへの転用により、建物全体が法律で定められている容積率をオーバーしており、必要な駐車台数を確保していない「違法建築」になっていました。

既存の図面によれば、計画当時の容積率の上限は480%を想定していたようです。竣工してから現在に至るまでの間にいくつかの法律の改正が行われており、幸運にも容積率を緩和する「特定道路に接続する道路に接する敷地の容積率」規定が新たに適用できることがわかりました。

緩和された上限の容積率は、以前想定されていた480%ではなく、530%まで建てられることがわかりました。このため図3のように、すべてを駐車場に戻すのではなく、2階の一部を事務所として残すことができました。

図3

さらに、法的に必要な駐車場台数に比べて、当初計画されていた駐車場の面積は過剰なものでした。実際に確保しなくてはいけない駐車台数はわずか5台でした。2フロアにわたる申請当時の駐車場の面積はあきらかに過剰です。駐車場として既存の計画にあったカーリフトを復元しようとすると、2000万円近くのコストがかかり、事業性を圧迫してしまいます。

そこで、必要な駐車台数はカーリフトが不要な1階で確保し、2階については駐車場に類するがより安価で設置できる「駐輪場」を設置することにしました。法律を読み込んでうまく活用すれば、事業性を確保できる再活用ができるというケースです。

違法建築の是正は、地道な作業の積み重ねです。新築の場合は最新の法律だけですみますが、このようなケースでは、建てられた当時から現在にいたるまで、どの時代の法律にもとづいて計画されたのかを紐解いていかなくてはいけません。

この事例のように、容積緩和は建築主にとって有利に働くこともありますが、緩和規定を受けた建物を改修する際には、思わぬ足枷となる可能性もあります。例えば、共用部の容積緩和規定が使える共同住宅から、適用できないホテルに用途変更する場合、単純な変更では容積オーバーとなってしまう可能性があります。

ですが、諦めないでください。我々のような建物に関する法律のプロが支援することで、ご紹介したケースのように改修方法を見つけることができるかもしれません。我々は、建物を長く、有効に活用する道筋を見つけていただけるよう支援しているのです。

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