昨今国会でも『保育園落ちた。日本死ね!』のブログが取り上げられるなど、待機児童の問題がクローズアップされ、新規に保育園が開設しにくい状況も徐々に認知されるようになってきました。

以下は友人、知人の方には事あるごとにお話しをしている内容なのですが、保育施設の支援をしている専門家にも認識不足の方達が多いため、建築の法律の専門家として、また設計者として福祉施設の開設のお手伝いを多数手がけた経験を元に改めて記事にまとめてみました。

詳細は過去に保育施設設置への建築的障害という記事に書きましたが、ここでは二つの大きな障害についてだけかいつまんで説明したいと思います。

障害1:用途変更ができない!

大都市圏では、既存の建物に一テナントとして入居する場合が多いのですが、その場合に大きなネックとなるのが、用途変更です。

新たに保育園を作るのですから、既存の建物の用途は保育園以外(例えば店舗や事務所等)になりますが、その面積が100㎡を超える場合には、建築基準法で 定められた、用途を変更するための確認申請の手続きが必要になります。

用途変更の確認申請を提出するには、申請をする建物全体が適法である必要がありま すが、この「適法である」という状態の物件が非常に少ないのです。

国土交通省の調査によれば、平成10年で検査を受けている建物は38%。これは公共の建物等も含まれており、またこれ以前の状況はもっと酷いので、弊社の実感としては、全体としては20%を割っているのではないかと思います。

そのため、およそ8割の建物はこの「適法である」という状態が担保されず、建築基準法に定める用途変更の手続きが、事実上不可能という状態になっているのです。

(都内で検討が進められている小規模保育の様な100㎡に満たないような保育園でも、福祉局との提出書類 に、建築士による調査で問題無いことを証明した書面が必要となって います。)

障害2:「バリアフリー法」によるバリア

平成18年、それまで努力義務であったバリアフリー法が、ある一定規模の建物に関しては義務化されることになりました。

東京都や横浜市では条例により、福祉施設は0㎡、つまりどんなに小規模なものでもバリアフリー法に適合させなければならないのです。

都内のマンションの一室で一時預かりを行うだけの託児施設も、この規定の制限を受ける場合があります。
エレベータを車 いす対応にする必要があったり、廊下や階段の幅、道路からの出入り口への手摺の設置や点字鋲の設置など多岐に渡ります。

もちろん、緩和があり、「知事がやむを得ないと認める場合には、適用しないことができる。」とされていますが、知事に対してこの「やむを得ない」と認めてもらうための「認定」を受けるための申請を行わなければならず、その認定には少なくとも一ヶ月程度の時 間がかかってしまいます。

その場合工事着手が遅れるなど、保育所の開設に対して大きな障害となることは否めません。

以上の様に建築に関わる法規の障害が大きく、弊社で設計した保育園も、入居できるもの(家賃や立地などの好みではなく、上記の要件を満たすことができる物理的にOKのもの)が見つかるまで、物件を5つも回りました。

このような状況を放置していては、どんなに福祉政策を推し進めても、ハードの面でいずれ頭打ちになってしまいます。

建築の側の専門家として、まずはこの問題を周知することが重要なのではないかと考えています。

建物の法律家・建築再構企画は、建築主(ビルオーナーや事業者)向けの無料法律相談や、建築士向けの法規設計サポートを行っています。建物に関わる関連法規の調査に加え、改修や用途変更に必要な手続きを調査することも可能です。詳しくは、サービスメニューと料金のページをご覧ください。